超ハイレゾ テスト音源の必要性
近年ハイレゾの規格(PCM 96kHz/24bit)を超えるサンプリング周波数、量子化ビット数に対応するデジタルオーディオ機器が一般化しています。
2024年末時点ではPCM 768kHz/32bit、DSD512 フォーマットに対応したデジタルオーディオ製品が増えてきました。
また、DAC ICおよびUSBデジタルインターフェイスボードでは PCM 1536kHz、DSD1024に対応した製品が登場してきました。
デジタルオーディオ製品開発においてハードウエアをテストするために上記フォーマット対応したオーディオソースが必要になりますが、市販されている音楽ソースでPCM 192kHz/24bit、DSD 128を超えるフォーマットのソースはなかなかありません。無ければ作るしかありません。テスト用に様々なフォーマットの音声ファイルを作成してみました。
テスト用オーディオソースとしては大きく分けて下記2種になります。
・ 正弦波等のテスト信号ファイル
・ 音楽ファイル
様々なフォーマットに対応した音声ファイルを作成する方法としては下記2種を必要に応じて使います。
・ テスト信号発生ソフトウェアによる生成
・ フォーマット変換ソフトウェアによるアップコンバートを含むフォーマット変換
テスト信号発生ソフトウェアによる生成
テスト信号発生ソフトウェアは、efuさんによるフリーソフトのWaveGenが有名で私も良く使わせてもらいましたが、2022年初頭に公開を停止されたようなので、現在入手可能で機能が豊富なREW(Room EQ Wizard)を使います。
REWを用いたテスト音源WAVファイルの生成
REW(Room EQ Wizard)は音響測定ソフトで、Windows/Mac/Linuxで利用できる無料のドネーション(任意寄付)ソフトウェアです。
ルームアコースティック、スピーカーの測定と分析を行うソフトウエアで信号生成、測定、イコライジング等様々な機能を持っています。REWの機能の一つであるGeneratorを用いてテスト音源生成を行います。
REWのダウンロードとインストール
REWのサイトから使用OSに合わせてインストーラーをダウンロードします。

ダウンロードしたインストーラーを実行しREWをインストールします。
REWを起動します。

右上のスパナアイコンのPreferencesをクリックします。
DACやオーディオインターフェース、マイク等を接続し測定する場合は、Output device、Input device等の設定を行います。
音源ファイルの生成だけならば、何も設定せずにデフォルトのままで問題ありません。

上部の波形アイコンのGeneratorをクリックします。
Genaratorウィンドウが表示されます。
生成する音源のタイプ、波形、周波数、レベル等を指定します。
下図の例では、サイン波、1,000Hz、0dBFS(FS sine Vrms: 1V)となっています。
その他、方形波、三角波、マルチトーン、ピンクノイズ、ホワイトノイズ、スイープ等様々な波形を生成できます。

Genaratorウィンドウ下部のボタン「Save to file」をクリックします。
Channels、Format、Duration(s)が指定できるようになります。

Formatの項のデータタイプは、16-bit PCM、24-bit PCM、32-bit PCM、32-bit Floatが選択できます。
作成したいテスト音源のデータタイプを選択します。

Formatの項のサンプリング周波数は、8kHz、16kHz、24kHz、32kHz、44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、176.4kHz、192kHz、352.8kHz、384kHz、705.6kHz、768kHz、1411.2kHz、1536kHzが選択できます。
作成したいテスト音源のサンプリング周波数を選択します。

左右チャンネルを変えたい場合はChannels、時間の長さを変えたい場合はDuration(s)を任意の値に設定後、右下のフロッピーアイコンのWAVボタンをクリックします。
WAVファイルのセーブ先を指定するウインドウが表示されるので任意のフォルダーを指定し保存します。

フォーマット変換ソフトウェア
TASCAM Hi-Res Editorを用いたフォーマット変換

TASCAM Hi-Res Editorはティアック株式会社がTASCAMブランドで無料配信をしているDSD 11.2MHz/PCM 384kHz 32bit対応の波形編集ソフトウェアです。
DSD/PCM相互のファイル変換やサンプリング周波数などの変換のほかファイルの分割、結合といった編集が可能です。
扱えるファイルは、WAV(拡張子 *.wav)、DSF(拡張子 *.dsf)、DSDIFF(拡張子 *.dff)です。
PCM(WAV)で扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:44.1kHz, 48kHz, 88.2kHz, 96kHz, 176.4kHz, 192kHz, 352.8kHz, 384kHz
量子化ビット:16bit, 24bit, 32bit Float
となります。
DSDで扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:2.8MHz, 5.6MHz, 11.2MHz (DSD64, DSD128, DSD256)
となります。
PCM(WAV)フォーマットへの変換設定
TASCAM Hi-Res Editor ウインドウ中央の「Drop a Sound File Here」にファイルをドラッグ&ドロップするか、
左下の「OPEN」ボタンをクリックしてファイルを選択すると、ファイルの読み込みが開始されます。

左下の「EXPORT」ボタンをクリックすると「Export File」ウインドウが表示されるので、出力したいフォルダー、ファイル名、ファイルフォーマット、量子化ビット、サンプリング周波数を設定します。


DSDフォーマットへの変換設定
ソースファイルを読み込みませた後、「Export File」ウインドウ内のFile Format:でDSDIFF(DSD)またはDSF(DSD)を選び、サンプリング周波数を設定します。
DSDIFF(DSD)の場合

DSF(DSD)の場合

フォーマット変換したオーディオファイル出力
出力したいフォーマットを設定後、「Export File」ウインドウ内下部の「EXPORT」ボタンをクリックすると出力が開始されます。

フォーマット変換されたオーディオファイルが出力されます。

Sound it! を用いたフォーマット変換

Sound it!は、株式会社インターネットが販売している製品で、録音・編集・加工・エフェクト・ファイルフォーマット変更・マスタリング・CD作成など、すべてをハイクオリティで扱う高音質・多機能サウンド編集ソフトウェアです。
扱えるファイルは、
DSDファイルでは、DSF(*.dsaf)、DSDIFF(*.dff)、DWSD(*.wsd)です。
PCMファイルでは、WAV(*.wav)、RF64(*.wav)、MS-ADPCM(*.wav)、IMA-ADPCM(*.wav)、G.721 ADPCM(*.wav)、G.726 ADPCM(*.wav)、G.711 μ-law/A-law(*.wav)、AIFF(.aif, *.aiff)、MP3(*.mp3)、AAC(*.m4a)、WMA(*.wma)、FLAC(*.flac, *.flc)、Apple Lossless(*.m4a)、Next/Sun(*.au, *.snd)、Ogg Vorbis(*.ogg)、3GPP2(*.3g2) 、RAW(*.raw, *.pcm)、SIW(*.siw)、MPEG4(*.mp4)音声のみ、Windows Media Video(*.wmv)音声のみ、CDA(*.cda)です。
PCM(WAV)で扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:4kHz, 8kHz, 11.025kHz, 16kHz, 22.05kHz, 24kHz, 32kHz, 44.1kHz, 48kHz, 88.2kHz, 96kHz, 176.4kHz, 192kHz, 352.8kHz, 384kHz, 705.6kHz, 768kHz
量子化ビット:8bit, 16bit, 24bit, 32bit
となります。
DSDで扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:DSD64(2.82MHz, 3.07MHz), DSD128(5.64MHz, 6.14MHz), DSD256(11.28MHz, 12.28MHz)
となります。
編集等の操作はPCMフォーマットデータで行われるため、DSDファイルを入力した場合、一旦内部でPCMデータにデコードされデータの編集等が行われます。DSDファイルを出力する場合は内部のPCMデータをDSDフォーマットデータにエンコードして出力します。
フル機能のPro版の価格は約2万円で、株式会社インターネットのオンラインショップ、Amazon等で購入できます。
Sound it! 9 Pro 試用版(ファイル保存不可、MIDIファイル読み込み不可、DDPファイルの書き出し不可、バッチ処理不可等の制限があります)はインストール後3日間まで利用可能です。

ダウンロードとインストール
購入後、インストーラーをダウンロードし、インストーラーをダブルクリックしインストールを進めます。
インストール後起動すると下図のウインドウが表示されます。

「設定」メニューから「オーディオポートの設定」をクリックし、出力デバイス、入力デバイスのドライバを指定します。

対応フォーマット
入出力できるファイルフォーマットは、WAV(*.wav)、RF64(*.wav)、MS-ADPCM(*.wav)、IMA-ADPCM(*.wav)、G.721 ADPCM(*.wav)、G.726 ADPCM(*.wav)、G.711 μ-law/A-law(*.wav)、AIFF(.aif, *.aiff)、MP3(*.mp3)、AAC(*.m4a)、WMA(*.wma)、FLAC(*.flac, *.flc)、Apple Lossless(*.m4a)、Next/Sun(*.au, *.snd)、Ogg Vorbis(*.ogg)、3GPP2(*.3g2) 、RAW(*.raw, *.pcm)、SIW(*.siw)、DSF(*.dsaf)、DSDIFF(*.dff)、DWSD(*.wsd)MPEG4(*.mp4)音声のみ、Windows Media Video(*.wmv)音声のみ、CDA(*.cda)と多岐にわたります。
PCMファイルの読み込み
「ファイル」→「開く」でPCMフォーマットデータを選択し開きます。

DSDファイルの読み込み
DSDフォーマットファイルを読み込む場合、PCMフォーマットデータに変換されて読み込まれます。
「ファイル」→「開く」でDSDフォーマットデータを選択し開きます。

「PCMにコンバートしますか?」のウインドウが現れるので「はい」をクリックします。

「デコードするフォーマット」のウインドウが現れるので、任意のビット・レゾリューションとサンプリングレートを選択します。

PCMフォーマット変換出力
PCMフォーマット変換ファイルを出力する場合は、
「加工」→「フォーマット変更」をクリックします。

「フォーマット変更」のウインドウが現れるので、任意のビット・レゾリューションとサンプリングレートを選択します。

「ファイル」→「名前を付けて保存」をクリックし、「名前を付けて保存」ウインドウ内の「ファイルを種類」でDSD Audio以外の任意のPCMファイルの種類を選択し、保存ボタンをクリックすると、フォーマット変更が行われたPCMフォーマットファイルが出力されます。

DSDフォーマット変換出力
DSDフォーマット変換ファイルを出力する場合は、「ファイル」→「名前を付けて保存」をクリックし、「名前を付けて保存」ウインドウ内の「ファイルを種類」でDSD Audioの任意のファイル種類を選択します。

「名前を付けて保存」ウインドウ内の「ビットレート設定」をクリックし、現れた「フォーマット指定」ウインドウ内の「サンプリング周波数」でDSDの任意のサンプリング周波数を選択します。

保存ボタンをクリックすると、DSDフォーマットデータへのエンコードが開始されます。変更が行われたPCMフォーマットファイルが出力されます。

エンコード終了後、再読み込みが要求されるので「はい」ボタンをクリックします。

AuI ConverteR 48×44を用いたフォーマット変換

AuI ConverteR 48×44は、FLAC、WAV、AIFF、ALAC、SACD ISO、DSF、DFF、mp3、m4a などの音楽ファイルに対応したオーディオ変換ソフトウェアです。CDリッピング機能やDSFタグエディターも内蔵されています。
フル機能バージョンの価格は約6万円でAuI ConverteR 48×44から購入できます。
機能に制限があるFREEエディションを無料で試すことができます。FREEエディションはすべてのトラックの中央に無音部分が入ります。
ダウンロードとインストール
AuI ConverteR 48×44のサイトからインストーラーをダウンロードします。(Windows、Macに対応)
インストール後 起動すると下図のウインドウが表示されます。

対応フォーマット
変換出力フォーマットは、下図のようにWAV、FLAC、AIFF、AIF、RF64、ALAC、aac、aac(mp4)、ac3、caf、dff、dts、mp3、ogg、wma v 2、wvと多岐にわたります。

WAV(PCM)フォーマットへの変換設定
WAV(PCM)への変換で扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:44.1kHz, 48kHz, 88.2kHz, 96kHz, 176.4kHz, 192kHz, 352.8kHz, 384kHz, 705.6kHz, 768kHz, 1411.2kHz, 1536kHz
量子化ビット:16bit, 24bit, 32bit, 32bit Float, 64bit, 64bit Float
となります。


DSF(DSD)フォーマットへの変換設定
DSF(DSD)への変換で扱えるフォーマットは、
サンプリング周波数:DSD64, DSD128, DSD256, DSD512, DSD1024 (2.8MHz, 5.6MHz, 11.3MHz, 22.6MHz, 45.2MHz)
となります。

FREE版の制限事項
FREE版には、すべてのトラックの中央に2秒間の無音部分が挿入されます。
本格的に音楽ファイルの変換を行いたい場合は用途に合わせて有償版を購入する必要があります。

フォーマット変換と出力
上部のフォルダアイコンの「ファイルを開く」をクリックして、ソースファイルを読み込みませます。
左下の「出力ファイルのディレクトリ」に出力ファイルのフォルダパスを指定します。
変換したい「フォーマット」、「ビット深度」、「サンプリングレート」を指定後、中央の「始める」ボタンをクリックするとフォーマット変換と出力が開始されます。

フォーマット変換と出力が終了すると「作業完了」と表示されます。ログに「Conversion is complete」と表示されます。

まとめ
フリーソフトでできる範囲では、
PCM(WAV)フォーマットのテスト信号ファイルの生成はREWのGenaratorを用いることで1536kHz、32bitまで対応可能です。
DSDフォーマットのテスト信号ファイルの生成(変換)は、TASCAM Hi-Res EditorではDSD256まで、AuI ConverteR 48×44では(途中無音部が入りますが)DSD1024まで対応可能となります。
音楽ファイルの変換は、TASCAM Hi-Res Editorを用いた場合、PCM(WAV)は384kHz/32bit float、DSDはDSD256まで対応可能です。これ以上のフォーマットに対応させる場合は有償ソフトの購入が必要になります。
有償ソフト例
Sound it! 9 Pro (約2万円) : PCMは768kHz/32bit、DSDはDSD256まで対応
AuI ConverteR 48×44 (約6万円): PCMは1536kHz/64bit float、DSDはDSD1024まで対応